受賞作品展⽰ 作⽂部⾨
令和5年度(第60回)受賞作品

※一部表示ができない漢字表記は標準漢字又はひらがな表記してあります

全国都道府県教育長協議会会長賞

阿佐海岸鉄道DMV

徳島県 徳島文理小学校 3年

堀端 宏樹

 ぼくは、夏休みに阿佐海岸鉄道のDMVに乗りました。ぼくは、ずっと前からDMVが気になっていました。DMVは、線路と道路の両方を走れるバスです。道路を走るときは、ゴムタイヤを使います。線路を走るときは、鉄車輪を使います。走る場所によって、バスの足が変身するのです。ぼくは、その変身、モードチェンジが、どこでどのように行われているのか、実際に自分の目で確かめてみたいと考えていました。DMVについて、記事を読んだり、写真をみたり、いろいろと想像しながら楽しみにしていました。そして、夏休みの終わりが近づく頃、宿題も片付くと、ついに、DMVに乗れる日がかってきました。
 その日は、午前四時に起きて、お父さんの運転で、弟と一緒に、車で出発しました。腕時計と双眼鏡を忘れず持って行きました。腕時計は、DMVに乗り遅れないためと、モードチェンジにどのぐらい時間がかかるか確認するためです。双眼鏡は、モードチェンジの様子を細かく観察するためです。ぼくたちの車は、夜が終わって、朝が始まろうとするそのさかい目をどんどん進んで行きます。山の中の濃い霧が立ち込めて、辺りを包みます。早くDMVに会いたいという強い気持ちと一緒に、ぼくはトンネルをぬけました。すると、その向こうは霧が晴れ、山と海が広がっていました。車は、海のすぐ側を走って、阿波海南文化村に着きました。車から降りると、ぼくの双眼鏡から、海岸に打ちよせる波が見えました。未来への波のり、ぼくのDMVは、すぐ目の前にきっといる、と思ったら、いませんでした。きっと今は、まだ車庫で点検中なのだと、気を取り直しました。
 そして、待つこと二十分、青い車体のDMVが道路を走ってやって来ました。ぼくの前で止まると、ドアが開いて、丁寧にステップ台が自動で出て来ました。ぼくは、そのステップ台を踏みしめ、ついに、DMVに乗りました。お父さんと弟も、一緒にです。車内の様子は、どう見てもバスです。ピンポンボタンがついていて、座席は十八席ありました。電車のようなつり革は、ありません。乗客はぼくたちだけでした。運転士さんが、
「どこに座ってもいいですよ。」
と、声をかけてくれました。弟は、まだ小さくて窓の外が見えにくいのか、通路側に座りました。ぼくは、運転席がよく見える前方の席に座りました。そこからは、運転席の中がよく見えました。マスコンハンドルは、ありません。その代わり、車のハンドルがついていて、運賃箱もありました。運転席も、やはり、電車ではなくバスです。あちこち観察していると、あっと言う間に阿波海南駅に着きました。ここから先は、道路が切れて、線路が続いています。いよいよ、ぼくが待ちに待ったモードチェンジが始まります。
 モードチェンジの間、乗客はそのまま車内で待ちます。運転士さんが、左側にある大きなボタンを押すと、車内に、賑やかなはやしと軽快な太鼓の音が鳴り出します。弟が、
「わあ、上がった、上がった。」
と、声を上げます。確かに車体の前方が、そして、次に後方が、持ち上がりました。運転士さんは、外の車輪の様子をモニタで見ていました。そして、モードチェンジ終了の表示が出ました。ぼくの腕時計で、十五秒ほどの短い時間でした。運転士さんは、外へ出て車輪の位置を確認すると、再び乗車し、そのまま線路を走り始めました。
 線路は、山の中へと続きます。すぐにトンネルが見えてきました。車体の屋根がするか、すらないか、ギリギリの所で通過しました。トンネルをぬけると、お天気もモードチェンジです。空の重たい雲が、パラパラと雨に変わりました。トンネルの外は雨が降り、トンネルの中は雨が止み、その降ったり止んだりを何度も繰り返しながら、線路を走ります。トンネルの切れ間に、ずっと海が続いています。線路の振動が、体に伝わって、カタカタンと音を立てます。それは、電車より音が小さく、そして不規則です。鉄車輪より、ゴムタイヤの方が、乗り心地はいいです。留置線に止まっていた電車とすれ違います。DMVは、やがて甲浦駅に到着し、またモードチェジです。同じ音楽が流れ、今度は車体が下がります。弟の歓声は、上がりませんでしたが、静かに楽しんでいました。DMVは、再び道路を走り、終点の宍喰温泉で折り返します。二度のモードチェンジのあと、初めの停留所、阿波海南文化村に戻ってきました。ぼくは、DMVを飛び降りると、急いで、次のモードチェンジの場所、阿波海南駅に車で先回りしました。車体の外側のしくみを観察するためです。車内で感じていた車体の下の動きが、目の前で見えます。車輪が出て来る様子をしっかり撮影しました。そして、DMVとぼくの夏休みは、走り去って行きました。

全文を見る