受賞作品展⽰ 作⽂部⾨
令和5年度(第60回)受賞作品

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全国連合小学校長会会長賞

弟とぼくの日々

愛知県 岡崎市立六名小学校 4年

橋本 総一郎

 「もう先に行くからね。」
 もう集合時間二分前だ。弟を置いて家を出る。
「行ってきます。」
 ぼくは、おくれることが大きらい。一年生のときから、おくれたことは一度もない。弟を待っていたら、集合時間に間に合わない。
「兄ちゃん、まってー。」
 弟の声をむしして、集合場所にむかう。もう、いつもこうだ。
 ぼくの弟の優は一年生。
「早く小学生になって、兄ちゃんと学校に通いたいな。」
 弟は保育園にいるときから、小学生になって、ぼくと学校に通うのを楽しみにしていた。ぼくも、弟と学校に通うのはどんな感じだろう、早く四月にならないかなと思っていた。
「一年生のげたばこと四年生のげたばこは近いからまかせてくれ。」
と三年生の時に言っていた。しかし、げんじつはちがった。
 ぼくは毎朝六時ごろ目が覚めてリビングに行く。しかし、弟はなかなか起きてこない。お母さんかお父さんが起こしにいかないと、起きない。起こしにいっても起きてこないときもある。起きてきても、またリビングでね始める。夜、もっと早くねればいいのに。お母さんにおねだりして、おそくまで本を読んでもらっているからだ。
 六時半になった。朝ごはんの時間だ。
「いただきます。」
 ぼくは、さっと食べ始める。その横で弟はまだねている。一体いつまでねているつもりだろう。お父さんが、
「優、みんなと一しょにごはんを食べな。」
と声をかけると、ねぼけながら、やっと体を起こして、お茶を一口飲む。ぼくが食べ終わっても、弟はまだ食べ始めていない。もう七時をすぎている。みんなが食べ終わるころに、やっと食べ始める。テーブルの上には弟の分だけがのこされている。もう、ぼくは着がえも終わって、歯みがきもした。あとは、集合時間まで、自分の好きなことをして待つだけだ。でも、弟はまだ食べ終わらない。じいちゃんが、
「優、早く食べろ。もうすぐ行く時間だ。」
と言っても、ぼくが、
「早く食べないとおいてくぞ。」
とおどしても、弟は少しも食べるスピードを進めようとはしない。弟の周りだけ時間が止まったみたいだ。
 もう七時二十五分。集合時間は七時三十五分。間に合わせるためには、相当急いでのこりのしたくをしないといけない。でも、弟の茶わんにはごはんがのこっている。ここからは、家族総出で、弟のしたくのおうえんが始まる。じいちゃんが弟にごはんを食べさせる。ばあちゃんが着がえを手伝う。お母さんが荷物のじゅんびをする。毎朝こんな調子で、弟は集合時間ぎりぎりでとうちゃくする。
 朝は、ぼくに心配をかける弟だけど、学校では、べつの顔だ。弟は四年生のぼくの友だちとおにごっこをするのを楽しみにしている。弟は一階の教室からすばやく出てきて、ぼくたちが三階から下りていくと、もう弟は運動場で待っている。ぼくたちのすがたを見つけると、
「兄ちゃん、早く。」
とせかされる。朝はあんなに、したくがおそかったのに、今度は弟がぼくに、
「早くして。」
と言っている。朝とまぎゃくだ。ぼくは弟が新しい友達と一緒に遊んだ方がいいと思って、弟に、
「同じ一年生と遊びなよ。」
と言っても、
「やだ。四年生の子と走ったら、足が速くなるけど、一年生の友達だったら、そんなに速くならないもん。」
と言って、ぼくたちと遊びたがる。ぼくの友達も、
「そっちゃんの弟、めっちゃ速いよな。体力ありすぎんだよ。おれ追いかけられると疲れちゃう。」
と言われるくらいだ。四年生のぼくの友達の名前ばかり覚えて、
「今日は、ゆいまくんをつかまえた。」
「今日は、はるみちゃんとじゅんせいくんにはさみうちされてつかまえられてくやしかった。」
と家に帰るとそのことばかりお母さんにしゃべっている。ずっとぼくの友達と遊んで、一年生の友達はできたのかと心配しているが、弟は保育園のころから、友達からしたわれていて、一緒に歩いていると、遠くからでも、
「優くーん。」
とよびかけらている。ちゃんと友達と仲よくやっているんだなと思って、安心する。
 朝ごはんはあんな食べるのがおそいくせに、学校の給食を食べ終えるのは、クラスでかなり早い方らしい。そして、お代わりもしていると言っていた。そんなに早く食べられるなら、もう少し朝ごはんだって早く食べられるはずだ。
 朝はずっとおそい日が続いているし、家にいると、すぐけんかになる。でも、ぼくの弟は、ぼくの弟だから、ぼくはこんな毎日も(悪くない。)と思っている。弟には朝ごはんを自分の全力を出して食べてほしいけど、これが弟の全力ならしょうがないと思う。ぼくは、弟の今を受け入れる。そして、ぼくの弟は一人だけで、もうこれ以上はふえることはないだろう。ぼくは、このたった一人の弟とぼくの家族を大事にして生きたい。
 二学期からは、弟は自分で目覚まし時計をかけて、六時三十分に起きるとはり切っている。弟がぼくに、
「兄ちゃん、早く。」
とせかしてくるのを、ぼくは期待している。

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